俺もさ、いつかはバンドを組みたいんだ。一人で歌うのは楽しいけれどさ、やっぱり音楽は大勢で楽しむもんだよな。あの人の言葉だ。まだ正式にはバンドを組んでいなかった俺たちを羨ましいとも言っていた。
 ふん、なにを言ってんだよ。お前と一緒にバンドを組める奴なんて、そうはいないだろうよ。はっきり言うけどさ、この国で探すのは難しいな。この世界でも難しそうだけどな。いっそ宇宙人とでもバンドを組むか? それが無理なら未来人とだな。
 聞き屋の言葉にみんなが笑ったが、その通りかもなってみんなが感じてもいたよ。
 あの人の音楽からは、不思議と仲間を感じられる。一人じゃないって言う意味じゃなく、背後からはドラムの音もベースの音も聴こえるんだ。曲によってはピアノやストリングスの音までが聴こえてくる。意味は分からないし、実際にはそんな音なんて鳴ってもいない。けれど確かに聴こえてくる。それがあの人の音楽なんだよ。
 聞き屋の演奏も、最高だったよ。正直言って、桜木町の二人組にも負けていない。けれど聞き屋は、聞き屋でいるのが似合っている。
 その日はサラリーマンマンが酔っ払って帰宅をする頃までそこにいた。話をしたり、聞き屋の歌を聴いたりするのがメインだった。あの人は、最初に歌ったきりギターさえ触らなかったよ。どうしてなのかはよく分かる。聞き屋が歌っても、立ち止まってまで聴く人はまばらだが、あの人が歌い出すと、その音楽が届く範囲の全ての人が立ち止まってしまうんだよ。当時からあの人の影響力は、世界規模だったってわけだ。なんせ露天商のイラン人までもが聴き耳を立てるんだからな。
 俺は次の日からバイトを始めた。ケイコは陸上部に正式に入部をした。カナエは読書部内に作詞課を創設した。ヨシオは放送部の部長になった。ケンジは毎日、聞き屋の元に顔を出していた。
 俺たちの行動はバラバラだったけれど、目的は一つだった。バンドを組み、ライヴをする。そして世界中に音楽を届けることだ。
 バンド名は決まっていた。ポップンロール。意味なんて誰かがきっと後からつけてくれる。ケンジがそう言って名付けたんだ。
 俺は単純にポップなロックンロールだと感じた。ケイコはホイップいっぱいのロールケーキのような甘さを感じた。カナエはバネのように弾けたいなと言った。ヨシオは、ポップコーンって美味しいし、作るのも楽しいよねと言ったよ。