やっと来たのか? おっ、これがお前の家族か? 聞き屋のそんな言葉に、なぜだか俺たち五人は揃って頷いた。そんな俺たちの姿を見て、聞き屋は笑った。
 お前ら、面白いな。まぁいいや。そんなところに突っ立ていると邪魔だからさ、こっち来て座れよ。
 聞き屋の言葉に促され、俺たちは横一列に壁際にしゃがみ込んだ。すると聞き屋は、おもむろに立ち上がった。そして、目の前の地べたに横向きに置かれていたギターケースからギターを取り出す。
 俺は今でこそ聞き屋なんて呼ばれてるけどさ、こっちが本職なんだよ。まぁ、あいつが来るまでの間、俺の歌でも楽しんでくれよ。そう言い、聞き屋の演奏が始まった。
 俺たちは黙って聞き屋の演奏を聴いていた。聞き屋は、本当に楽しそうだった。基本的には俺たちに背を向けていたが、時折こっちに顔を向ける。正直俺は、格好いいなって思ったよ。
 ケンジは終始笑顔だった。聞き屋よりも楽しんでいたのかも知れない。
 ケイコはなぜだか頬を真っ赤に染めて、聞き屋の姿を、焦点の合っていない瞳で見つめていた。
 身体で感情を表現していたのが、カナエだった。頭や身体全体を揺らしていた。手拍子を入れたり、膝を叩いたり、足踏みをしたり、カナエ自身が楽器になっていた。そして、聞き屋との時間を共有して楽しんでいた。
 ヨシオは真剣な表情を崩さず、じっと聞き屋に目を向けていた。聞き屋が俺たちに笑顔を向けても、ヨシオだけは無表情を貫いていた。けれど俺には伝わっていた。あいつは興奮していた。膝の上に乗せた両手がそれを証明している。握り拳を作っていて、その拳が震えていたんだ。拳の隙間から溢れる汗が、ヨシオの感情だよ。あのままの時間が長く続いていたなら、きっとヨシオは倒れていたはずだ。もしくはその拳の隙間から流れる汗が真っ赤に染まっていたことだろう。ヨシオの手の平には、翌日までくっきりと爪痕が残っていた。
 聞き屋の曲は、一曲で終わりだった。たった一曲でも、その魅力は抜群だった。ケンジが言っていた驚きは、このことかって思ったぐらいだが、それは間違っていた。
 今日もあんたは最高だよな。
 その言葉は、ケンジのものでも俺たちの誰かのものでもない。その言葉の主は、突然聞き屋の目の前に立ちはだかり、そのギターを奪い取る。見た目はケンジの友達にもよく似ていたが、偽物感がまるでなかった。サラサラに輝く長髪が、格好良かった。
 聞き屋はケンジの隣で、俺たちと横並びにしゃがみ込んだ。
 ここからが今日のメインだよ。ケンジがそう言った。