俺たち五人は、久し振りに全員が揃って下校をした。なんだか不思議だよな。家族全員で帰るっていうのは、恥ずかしいんだ。登校するときは感じないのにな。
 聞き屋と知り合いって、凄いことなんだって。そう言ったのはケイコだった。陸上部の子が言ってたんだけどね、この前の事件を解決したのも聞き屋なんだって。
 ケイコが言う事件っていうのは、国内ではそれほどの話題にはならなかったけれど、横浜市民にとっては衝撃的だった事件のことだよ。
 横浜駅構内にある赤い靴はいてた女の子像に着色されるっていう事件が起きたんだ。その靴だけを、真っ赤に染めていた。その綺麗さに、このままでもいいんじゃないかって言葉も多かった。
 聞き屋はその犯人を探し出しただけじゃなく、その犯人に、山下公園にある赤い靴はいてた女の子像にも色を濡れと言ったんだ。当然、横浜市のお偉いさんからの許可を得てだよ。どういう繋がりかは知らないが当時の市長がその行為を正当化していた。
 私はただ、いい音楽を聞きたいだけ。本当にその人、凄いの? 神奈川カナエの言葉に、ケンジは笑顔を見せる。驚くよ、きっと。そう言った。
 横浜駅より、今は桜木町の方が盛り上がってるって噂だよ。二人組の凄い人気者がいるって聞いたことあるんだ。ヨシオがそう言った。その人たちなら私聴いたことあるよ。と、カナエが言う。確かに凄い人気だったよ。集まってたのは殆どが女子だったけれどね。いい音楽だったけれど、女子たちの悲鳴が凄くてあまり楽しめなかったな。
 俺はまだ、音楽を聴いて自分の運命が変わるなんて信じていなかった。ケンジだってたまには間違いを起こす。音楽をやっている男なんて、所詮は女受けを考えているだけなんだ。カナエの言葉がそれを証明しているって感じたよ。
 とは言ってもさ、実際に俺も後日桜木町でその二人組の音楽を聴いたんだが、正直勿体無いと感じたな。あんな風な悲鳴に包まれなければ、もっと音楽が活きるのにってな。静かな空気で聴くべき音楽も存在するんだよ。ざわめきを好む音楽だって確かに存在はしているけれどさ。