本当にあれが聞き屋なのか? 俺はケンジの隣に腰を移して壁に凭れた。聞き屋がいた場所にしゃがんだんだ。なんだか俺が噂の聞き屋になったみたいで、いい気分だった。歩いているときには感じられない、いつもとは違う横浜を感じられた気分がしたよ。座って眺める世界は、学校の屋上から眺める校庭とはまた違った楽しみがあった。
 そうだよ。ここに座って話を聞いてくれるのは、聞き屋しかいないってさ。今の俺たちのように座ってるだけの奴には、誰も話しかけてこないだろ? あいつは特別なんだよ。けれど驚くなよ。明日来る奴はもっと特別だ。俺たちの運命を、きっと変えてくれる。ケイコたちも誘って、五人で来いってことだな。
 ケンジがなぜそんな言い方をするのか、意味が分からず、俺はきょとんとケンジを見つめた。五人で来たければ今日だって来られたんだ。誘わなかっただけだしな。俺はそう思っていた。それに、たかだか一人の人間に会ったぐらいで、運命なんて変わらない。そうとも思っていたよ。
 俺って馬鹿なんだよな。俺はさ、っていうか俺たち四人はみんな、ケンジとの出会いで運命を変えている。そのことはあまりにも自然すぎて忘れていたんだけど、あの人との出会いで思い出すことになるんだ。
 聞き屋のあいつはさ、俺たちのためにわざわざ待っていたんだぜ。口には出さなくても、感じるだろ? 仕事で忙しいのに、律儀な男だよ。俺はさ、昨日約束したんだ。タケシって奴がいるから、会わせたいってな。俺たちの関係も全て話したんだ。後の三人にもいずれは会いたいなって、あいつは言っていたよ。今日俺が連れて来ないことを知っていたんだろうな。あいつはさ、五人揃ってあの人に会わせたいと思っているんだろうよ。だから今日はあえて呼ばなかった。そして明日はやって来ると言い残しただろ? あれってさ、明日は全員で来いよっていう意味なんだ。
 そうなのか? なんて間抜けな返事をした俺だが、ケンジの言う言葉の意味は半分も分かっていなかった。明日は五人揃って横浜駅前に集合か。なんだか恥ずかしいなって思ったよ。中学の同級生にも、クラスの誰かにも会いたくないなってことだけを考えていた。
 次の日ケンジは、朝から興奮していた。俺以外の三人に、今日は絶対に行こうぜと誘っていた。損はさせない。きっと世界が変わるよ。ケンジがそんなセリフを言えば、断る馬鹿はいないよな。少なくとも俺たち五人は、ケンジの言葉の強さを信じていた。