明日決行すると、ケンジが言った。そいつはめでたいなと、俺は言う。これからしばらく入院生活だ。学校が平和になるよ。そう付け加えると、ケイコとカナエも、ヨシオも頷いた。
 そんなに心配するなって。俺が怪我なんてするかよ。生きるか死ぬかだ。まぁ、期待してくれよな。
 ケンジはそう言い、缶ビールを口に運んだ。
 中学生のくせにって、今では思うよ。いくら壮行会だと言っても、褒められたことじゃないよな。そんなことは分かっていて、俺達はヨシオの家に集まったんだ。勘違いはしないでくれよ。ヨシオの父親が酒を勧めたわけじゃない。俺達が勝手に酒屋で仕入れたんだ。飲み終わった空き缶もバレないように外のゴミ箱に紛れさせたよ。
 こんなことを言うのはなんだけど、酒の味なんて俺達にはどうでもいいんだ。大人達だってそうだろ? 楽しいひとときに、酒を飲む。ジュースでも構わない。ようはみんなで集まって盛り上がりたいだけだ。酒なんて、飾りにすぎないんだ。
 とは言っても、中学生の身体はまだ、酒に慣れてはいなかった。ヨシオの部屋でのお泊まり会はいつものことで、月に一度は五人で集まっていた。俺たちの中では一番大きな家に住んでいて、部屋も広い。まぁ、五人もいるとそれほど広いとは感じないんだが、俺の部屋の倍はある。
 酒を飲んだのは実はこの日が初めてだったんだ。俺達は各自で食事と風呂を終えてから集まり、酒を飲みながら翌日のことを中心に話をする。っていう予定だったんだが、アルコールの力って予想以上に強いんだよな。俺達は全員、ほんの数口飲んだだけで眠ってしまったよ。
 翌朝目覚めると、ケンジの姿がなかった。あいつは一人で飛ぼうとしてたんだ。後で聞いたんだが、万が一の事故のとき、俺達にまで責任が降りかかっては困ると考えたようだ。バカなやつだ。そんな責任、俺達にはどうでもいいことだ。ケンジがバカなことをするってことは、俺達がバカなことをしているってことなんだよ。家族ってそういうもんだ。いいことも悪いことも、共有してこそなんだよ。
 俺達は慌ててケンジを追いかけた。行き先は分かっていたからな。ヨシオの母親が一階の廊下にいたのでケンジのことを聞くと、三十分くらい前に出て行ったわよ。なんだかとても楽しそうな笑顔だったわ。そう言った。
 正直やばいなって思ったよ。ケンジは覚悟を決めている。川に落っこちて頭を打ち、血を流し海へと流される姿しか浮かんでこなかった。
 俺たちはとにかくケンジが飛び立つ予定の崖に向かおうとしたんだ。ヨシオの家は川沿いにある。川沿いを走り、田んぼを超え、崖の上へと繋がっている階段を駆け上がった。
 そのときだよ。うおぉーなんていう叫び声が空から降ってきた。
 見上げると、自転車に乗ったケンジが空に浮かんでいたよ。
 誰がなんと言おうと、俺たち四人は見たんだ。ケンジは確かに、空を飛んでいた。