来ると思ったよ。なんてつまらない言葉を聞き屋は落とす。横浜の街である種のヒーロー扱いの聞き屋だが、俺たちの前ではただのおっさんなんだよ。頼りになる兄貴と呼べよなんて本人は言うが、どう見ても親戚のおっちゃんって感じなんだよな。まぁ、実際頼りにはなるんだがな。
 フェスに出るんだってな。まぁ、お前らなら心配はない。ていうかまぁ、違う心配はあるんだがな。日曜が過ぎたら、お前らはもう、普通の学生じゃあいられなくなるだろうな。少なくとも、あいつと肩を並べて生きるんだ。
 俺たちは変わらない。ケンジがそう言う。その眼差しは、いつものように熱く、真剣だった。
 そんなことは分かってるんだよ。変わるのは、世間だ。お前らにそれが耐えられるのか、俺はそれが楽しみで仕方がないんだよ。世間に負ければそれまでだが、勝てばお前らが世間なんだ。
 なによ、それ? なんて言ってカナエが笑う。ケンジもつられて苦笑いだ。けれど俺には、笑えなかった。分かってしまったんだよ。聞き屋が言う言葉の意味がな。
 タケシは意外と物分かりがいいんだよな。俺は思うんだよ。タケシがいるから、ケンジの歌が輝く。タケシがいるから、バンドに喜びが満ちるんだ。
 なに言ってやがる。そんなんで俺を褒めたって意味はないよ。俺はな、こいつらがいなけりゃなにも出来ないってことを誰よりも理解してるってだけだ。世間っていうのも、それの延長なんだよ。俺たちが俺たちでいればいいだけなんだ。まぁ、それが意外に難しかったりもするんだが、五人が揃っていれば問題はないよ。
 フェスっていえばな、来年の話だけど、真夏の富士山で大規模なフェスを開催するって噂だ。やっぱりフェスは、夏が一番盛り上がる。今やっているフェスもな、夏フェスのための予行演習らしいからな。この国で最大のフェスを開催するらしいんだ。お前たちもきっと呼ばれるぞ。なんせその興行主もナオミの親父さんだからな。
 日本最大の夏フェスか。確かに魅力的だよな。なんせ俺らは、世界最大級の夏フェスの大トリを目標に切り替えたばかりだからな。