外国人のキャッチャーがユウキになにか話しかけていた。その言葉を受け、ユウキはニコッと笑った。外国人のピッチャーも、笑顔を見せたよ。そして本気の球を投げつけた。
 ユウキは二度、見逃した。そのままでいいんだと俺は思った。そんな思いでユウキを見つめていると、俺に顔を向け、ニコッとする。思いが通じてよかったと安心し、俺は頷いた。
 しかしユウキは、俺が思っていたのとは違う行動をとった。バットを短く持ち、思いっきり振ったんだ。
 ボールはバットに当たったが、ピッチャーの前にゆっくりと転がっただけだった。どうせ間に合わないんだ。無理して走ることはないのに、ユウキは全力で一塁ベースを駆け抜けた。結果はアウトだよ。しかも、一塁ベースを踏む際、痛みに顔を歪めていた。
 その表情に気がついたのは、俺だけだったようだ。ユウキは笑顔でベンチに戻ってきたんだが、よく頑張ったとの言葉しか聞こえてこなかった。ケンジでさえ、そんな労いの言葉しか使わなかった。俺もそれに倣ったよ。本人が隠そうとしているんだ。無理に暴く必要はない。そう思ったが、やはりきつく叱った方がよかったのかもと、すぐ後に思ったよ。
 裏の回を凌げば俺たちの勝ちだ。運がいいことに、三人で片付ければ外国人の二人にも甲子園のあいつにもまわらないで済む。ケイコは最後の力を振り絞り、頑張った。そして二人を三振させた。
 後一人になり一球目、ボテボテのセカンドゴロだ。そこを守っていたのはユウキで、普段なら簡単に処理できる球だった。しかしユウキは、捕らえた球をファーストに投げる際、足の痛みで踏ん張りが効かず、倒れ込んでしまった。しかしその球は、なんとかケンジの手元に届き、三人目を打ち取った。キャッチャーをしていた俺は、真っ直ぐにユウキの元に向かい、背負ってベンチに戻り、その足を手当てした。まぁ、ケンジの母親が処置しているのを見ていただけだったんだけどな。ケンジの母親は、結婚する前には看護師だったらしいんだ。
 試合には勝ったし、古巣のチームメイトと外国人は俺達を認めてくれて握手を求めてくれた。新監督はしかめっ面で居心地悪くしていたけれど、俺達は目標を達成できて満足だった。正直、決勝のことなんてどうでもよくなっていた。
 そして決勝当日は、コテンパンにやられてしまった。怪我を押しての出場だったが、それが理由で負けたんじゃないのは明らかだった。俺達はすでにやる気を失っていたんだから当然だよ。本気じゃない奴は、勝てないんだ。それが勝負の世界の現実だって知ったよ。
 野球はもういいか?
 ケンジがそう言い、俺達のチームは解散をした。ヨシオの父親の働きにより、俺達五人とユウキ以外の三人は古巣のチームに受け入れられることになった。これは噂にすぎないんだが、ケンジのことを好きだったもう一人の女子は、甲子園のあいつの彼女になったらしいよ。