「香魚? 行くよ?」

「あ、うん」


 数歩先を行っていた優紀に呼ばれ、顔を上げる。こちらを見ていた優紀の顔にも茜が差していて、顔半分だけオレンジ色だ。


「……」


 そこにふと光の粒が見えたような気がしたのは、香魚の気のせいだったのだろうか。優紀の周りをキラキラと舞うそれは、今の香魚にはどんなに手を伸ばしても掴めそうにないものに思えて、きゅっと心臓が痛くなる。


「……香魚?」

「ううん、なんでもない。行こっか」


 さっと笑顔を返して、優紀に並ぶ。

 わかっている、優紀に嫉妬するなんてお門違いだって。今まで想うだけでなにもしてこなかったんだから、こんな気持ちを抱くこと自体、親友に対して失礼だし間違っている。それに香魚自身も、今年もどうせ去年と同じだと諦めにも似た納得をすでにしている。


 でも、どうしてだろう。想いを寄せてくれる人がいる優紀が羨ましくて仕方がない。


 それを誤魔化すように、帰り道での香魚は優紀を質問攻めにし、必要になるかどうかまだわからないからと渋る彼女を押し切って優紀のぶんの生地もまとめ買いした。


 ギンガムチェックの生地を袋に詰めながら「今年もいよいよだねぇ」と嬉しそうに目を細めるレジのおばさんと「そうですねぇ」なんて和やかなムードで会話をしながら、会計を済ませ、礼を言って店を出る。