そんなことを話しているうちに、また眠たくなってしまった私を察したのか眞子は帰っていき、母が入れ替わりに戻ってきて少し話しをした。ごめんねと謝ると叱られ、すぐさま穏やかに笑う母は何かの神様みたいだ。その目元に、眞子が教えてくれた痕跡は残っていなかった。
きっとみんな、誰にも見られないように泣いている。いつもより少し優しかった眞子も、いつもどおり過ぎる母も、起き上がれなかった私も。多少の無理をして、誰かの前で堪えながら。


那由多も? 想像をした。


那由多のことを想って、想像の那由多を連れて、私の意識はまた夢の中に向かってしまった――。





だからだろうか。眠る私の頬を冷たい指でなぞるのが、清香と私の名前を静かに紡ぐのが、那由多のような気がしてしまったのは。
これは幸せな夢だと、逃したくなくて引き寄せた。


「――、那由多?」


「……」


「嬉しい。病室にまで来てくれるなんて」


「……」


「もしかして、気にしてる? でもね、私があのベンチに勝手に行ったの。勝手に元気をなくして、少しばかり無理をして、少しふらついて躓いて、少し眠たくなってしまっただけで」


「……」


「那由多が気に病んでお見舞いに来てくれるものでもないから、元気出してね」


「……」


「来てくれたのは、とても嬉しいけど」


「……」


話しているうちに意識は徐々に覚醒していく。ベッドで仰向けのまま目にした空は真っ暗で、月が見えないものだからおよその時間もわからない。これでも、少しだけ勉強して時計を見なくてもある程度予測出来るようにもなった。なのにこんな曇った夜空ではわからないよ……ああでも、那由多がいるのなら、いつも会えるくらいの時間なのかもしれない。
覚醒し、本当に私のベッド横に棒のように立っていてくれた那由多を見上げる。


相変わらず何も言葉をを発しない那由多は、今日もおしゃれな死神風情で笑ってしまう。眉をしかめる那由多は、けれど、私に触れるのをやめないままで。
それに勇気をもらえた。


「那由多、この前はごめんなさい」


「……」


「那由多が怒った理由もわからないうちから謝るなんて間違ってるんだけど……」


「……」


「もう会えなくなってしまうなら言わなきゃって」


「……」


「それと、会えて良かった。私、那由多と会えるのいつも楽しかった。那由多のしたいことが相変わらず私のしたいことだった。那由多が楽しそうだと私は幸せで、那由多と一緒は幸せで」


「……」


「だから私は、幸せなの」


語彙力のない私の言葉など届かないかもしれない。
届かないくらいが、もしかしたらちょうどいいのかもしれない。


私にとって本来とは違う名称のものになってしまった那由多とは、もう会えなくなってしまうかもしれないから。途中から、私はそんな未来を想像して涙ながら那由多に伝えた。
せっかく今まで我慢していたのに。
那由多はそんな私の涙を、黒い死神の衣装の袖を使って止まるまで拭い続けてくれていた。