「調子はどう?」
「……」
このところ、多分三日間くらい、うつらうつらと夢みたいな世界に私はいた。身体はだるくて動くことは出来なかった。
なんとなく、家族の、先生や看護師さんの気配はしていたけれど、会話の内容までは聞き取れなかった。夢の中をさ迷いながらの現実に実感はなくて、記憶か夢かどちらだったのか訊いてみないとわからない。
まだ覚醒には程遠く、昼夜問わずに眠っては、ぼんやりとしたまま目を開けていた。
今はいったい何時なのだろう?
それは声に出ていたみたいで。声が出たことに驚いていると、視界の右側から友達の顔がひょいと現れた。
「夕方だよ。今五時くらい」
「……眞子?」
「そう。しばらくだね」
「その節はありがと」
ベッドに横たわったままの私を右上から覗き込み、そのシャープで美しい顎のラインを惜しげもなく見せつけてくるのは、友達の眞子だった。
「まだ置いててもいいよ? 家にもうひとつあるし」
「ありがとう。でも、もういいかも。でも持って帰ってもらうのも悪いから、退院したら私が届けるってのもアリかな」
那由多のことを考えてしまい胸が痛む。眞子から借りたものは天体望遠鏡で、那由多とふたりで観測をするためにそうしたときに使わせてもらった。
あのときの穏やかな夜と、最後の夜、那由多との全ての夜を思い出す。
「清香はいい子だねー」
何故か誉められ頭を撫でられる。お風呂に入れていないから遠慮したいけれど、いかんせん身体のだるさは続行中で。うりゃうりゃと、なんだか嬉しそうな眞子にされるがままにされていた。
しばらく経ち、行為に満足したのかくしゃくしゃになった私の前髪を整えてくれながら眞子が呟く。
「おばさん、少し買い物行ってくるって」
「そっか」
「わたしが来たとき、多分泣いてた」
「……」
「無理はしないで」
「はい」
「清香は、なんで夜中に病室抜け出して倒れたの?」
「……死神に」
「……」
「会いに行ってた」
「死神……に会って、清香は倒れたの?」
「ううん。死神には会えなくって……会いたくて。会えてたから、私は元気でいられて。あんなぶっきらぼうで口が悪くて寂しいって顔しながら見送ってくれる人に、私は会いたいし、謝りたいの」
「……」
「……お母さんには秘密にしてほしい」
「いいよ。……清香がちゃんと未来を考えてたから、今日のところは見逃す。けど、無理はもうしないで。……清香が元気で戻ってくるの信じてわたしも元気でいられるけど、時々、泣きたくもなるから」
「――うん。絶対に」