「そう、だね……」


「じゃあ、もっと泣き叫んでみろよ。死にたくないとか縋って怖くて顔面凍りついてみろよ震えろよ。屋上から飛び降りるくらいやってみせろ! ……お前は死ぬんだぞ。ここでなんか何も叶わない、ただの気休めだ! なのに最初からお前はどこか他人事で上の空でへらへらばっかしてやがるっ」


「那由多?」


「けどなっ、清香は死ぬんだ!」


「っ」


突然激昂した那由多の怒りが怖くて、私は何も言い返すことが出来ない。落ち着いてもらうことも出来ず、ただただ固まってしまっていた。


……泣いたよ? 私だって。
縋りたかった。けれど、どこにそれをしていいか未だわからない。
表情なんて、だいぶ失くした。
飛び降りることは……出来なかった。だって私は愛されているから。その人たちのためにもそれはしてはいけない。


健全な心をまだ残せているのは、それは那由多のおかげでもあったのに。那由多がいたからへらへら出来ていたことも多かったのに。もう、何もかもどうでもいいと泣いて、手のひらに爪が食い込み傷になってまた泣いて泣いて。怖くて眠れなくて身体に負担になるときばかりだった。一日のうちのいったいどれだけ、私には力がはいらないときがあって恐怖しているか。けれど、那由多と会えそうな夜には、不思議と少しだけ、元気になれたのに。
那由多の前では、そんな私は出すべきではないと思っていた。それに、笑顔で元気に楽しくいたかった。何日かに一度の、ほんの少しの時間を大切にしたかった。
わからないだろう那由多には。ここでの時間が、私の今の生きる希望の多くになっていることを。死神にはきっとわからない。


そんな私を出さなかった理由はもうひとつ。
知られたら、もう那由多とは会えないとも思った。だって那由多は死に導こうとする存在だから。
それは多分正解で。けれど……那由多も楽しそうにしていたじゃない。那由多にとって、楽しいは罪なこと?


「俺は死神だ。……清香を、生気に満ちさせるためにいるんじゃない。幸せな清香なんて、俺には要らないんだよ」


いつもは那由多が私を見送り、私が院内に入ってから振り返ると、風のように姿を消しているのが恒例となっていた。けれど、今日は那由多から去っていってしまう。乱暴に立ち上がり、持っていた紙コップを中身の残ったまま忌々しげに握り潰し、地面に強く投げつけていった。


「清香なんて、早く死んでしまえ」


そんな言葉を残していった那由多が、私が倒れてしまうまでの最後の姿だった。


それから何回も少し無理をして倒れてしまうまで、私はベンチまで足を運んでみたけれど、那由多と会えることは出来なかった。