「とくに何か秀でたところもなく平均的なのが、私の全て」
お茶がまだ残る紙コップを両の手のひらでもてあそびながら、私は私のことを俯瞰で見つめてみる。
とても平凡で、平均的な人間だ。選択肢から選んでもいつも大多数の場所にいる。何事も百の数値の中の五十のところに知らず立っている。乱高下しない揺れ動かない、天秤の真ん中に、きちんと考え抜いた結果だとしても私はいた。
十七年間の人生で、特にニュースなことも起こらず、毎日を緩やかに流されるようにいたのだと思う。それはとても平和だったということなのだけれど。
けれど、両親が作ってくれた私のアルバムはとても分厚い。なんでもないことのように私には思えることも、とても大切な瞬間なのだと記録してくれていた。当時のことを語ってくれる表情はこちらがむず痒くなるくらいの笑顔で、それを嘘だと疑えることはなく、なんだかとても恥ずかしくて嬉しかった。私の人生を特別視してくれることを。
そんな大切な両親に、こんな身体になってしまったのを、時々目を見られないままごめんねと言って、それをまた後悔してしまい、どうするのが正解なのかわからずにいた。
「平均的って、どんなだよ」
那由多が不思議そうに問うてくる。ああ、この表情も初めて見るものだ。目をいつもより大きく見開いていると、少し幼くなって可愛いなんて、きっと言ってはいけないんだろうな。
不思議そうなんて、死神の那由多は、私とは全く違う数奇な人生を送ってきたのだろうなんて、きっととても優しくない思考だ……。
「普通に今までを過ごしてきたなあ――毎日お母さんと手を繋いで幼稚園に行って、重たいランドセル背負って小学校行って。雨じゃなくても傘をさして映画みたいに空をいつか飛べないか試したりしてた。近くの中学校に友達全員進んだのにクラスが私だけ別になってへこんだけど部活は揃えたり。高校は制服で選んだんだけど、頭のレベルが合ってたから余裕のあるときはバイトして、そのバイト代全部使って遊んでお母さんに怒られたり――」
「それはよくある話なのか?」
「うん多分。――でもきっとそれは、とても幸せなことなんだよね。自分がこうなって、初めて実感した」
「……」
そのとき、那由多が纏う空気が突然ぴりぴりとしたものに変わった。見ると、何故か那由多は唇を噛んでいて。
怒っている?
「那由多……?」
そのまま黙りこんでしまった那由多を覗きこんでみると、真っ黒な全身から苛立ちを隠さない雰囲気を醸し出していた。
そうして、
「……でも、そんな幸せな清香は死ぬんだ」
今までで一番冷たい声色で、死の宣告は行われた。