「清香は、愚鈍で鈍感で馬鹿なんだな」


「なによそれ……」


もう何度目かは数えるのをやめた那由多との時間、まだやりたいことを言わない私に痺れを切らしたのか、舌打ちをされてから真っ正面から言い切られてしまった。


「やりたいことも浮かばず、自分の残り時間を気にもしないように見える。俺みたいな嫌な奴に怒りもしないで呑気極まりない」


「悪態をついてる自覚はあったんだ。――私のことは、慎重で粘り強く、芯が強くて懐が深いって、これからは言ってくれていいのよ?」


「……清香は、ここに来る前はいったいどんな毎日を過ごしてたんだか」


「死神はそんなことも視えないの?」


「っ、むやみやたらに覗かないのが俺の主義なんだよっ」


最近は、夜をこうして過ごすのも快適な季節となってきた。じきに雨ばかりの季節になり不快指数は一気に跳ね上がる……それは嫌だ。髪のうねりは女子の天敵だ。


ぶっきらぼうで、けれど自分の行動を後ろめたくも感じている那由多に、なんだか急に、私のことを知ってほしくなった。


「私のこと、話すのなんて迷惑でつまらないんじゃないの?」


「だったら担当になんかならねえよ」


そろそろ暑くなってこないのかと勝手に心配してしまう黒のロングカーディガン。その両サイドにあるポケットに両手を突っ込む那由多の仕草は、まるで冬の寒さから逃れているみたいで……。
那由多の顔の皮膚の色は青さの混じった白。月明かりの下だと、それがとても際立つ。初日に心配になり訊ねてみれば、死神だからだと言う。
それでも心配は心配で……那由多の死神だからだという顔色は、私のそれより憂うべくものだった。


座るベンチの、拳ふたつぶん空いた隣に座る那由多にライチが香る烏龍茶を紙コップに半分注いで渡す。前に母親とデパ地下に行ったとき、この香りに一瞬で虜になり、せがんで買ってもらったものだ。今日の茶葉はそのときのものではなく、最近新たに買ってきてくれたもの。
これは、私たちが飲んでもいいもの。


「美味しい?」


「思ったよりは」


水しか飲まねえと、最初眉を寄せて警戒していた那由多だったけれど、案外すんなりと受け入れられたようで。飲んだあと、満足げな息を静かに吐く。
受け入れられたことに安堵した私も、遅れて口に含んだ。体内を流れていく液体の温かさが心地よく感じるのは、快適だと思った外気がまだ適温でないということなのか。


「こうして、お気に入りのお茶を那由多とここで飲んでいるのも、私がしたかったことだって――」


「……」


「――やってみてわかったわ」


「……のろまだな」


「さっきより、ちょっとオブラートに包んでくれたのね」