それからも、私たちは交互に望遠鏡を駆使して空を観察してみたけれど、とても綺麗ねというだけの感想しか出ず、星を繋ぐことは出来なかった。今が季節だろう春の星座を探しているのに見つからないのは今年が寒いせいだとか、きっと的外れだろうことだけが口をつく。正解を教えてくれる人なんかいないものだから、無知同士が絶え間なく言い合うだけで。
「ねえ、那由多」
「なんだ」
彼の黒いカーディガンを引っ張る。
「望遠鏡を覗くのも、直に見上げるのも疲れちゃった」
「っ、だったら早く部屋に戻れ……っ」
相変わらずぶっきらぼうで笑うところなんか見たことはなかったけれど、最初の頃より、那由多は角がとれてきたと思う。
特に、私が予想外のことをしたときに焦る様子が一番わかりやすい。それを見たいのもあって、私は時々彼を動揺させる。どうやら今回のも成功らしい。
「だから、ここに仰向けに寝転ぼう。きっと綺麗よ?」
念のため敷いておいたレジャーシートに那由多を促す。隣合って寝転ぶなんてかなり恥ずかしいことだけれど、どうせなら一度くらい経験してみたかった。
大きさは大人二人が寝転んでも余裕のあるものを選んで借りた。入院してから元気のなかった私が言うわがままを、喜んで叶えてくれた友達に感謝する。連絡してすぐに、自宅からこの病院まで、望遠鏡やレジャーシート、他にもお見舞いだと色々持ってきてくれた。
「……」
「ね?」
「ああ」
今日の夜空は雲もない晴天。病院の敷地内なら照明も少ないから、こうして寝転んで見上げてみても星はそれなりに見えるもの。瞬いているのがわかるのは、その星が他より明るいから認識出来るのか……私たちでは到底答えなんて出ないけれど、那由多と並んで見上げる星は、とても美しいものだった。
やがて、どちらともなく終了を悟る。
内緒だけれど身体はとうに疲れきっていた。
「楽しかった」
「ああ」
「それにしても、案外見つからないものね。こんなことしていても」
この庭から見える病院部分は外来が殆どを占めていて、警備の人に気を付ければ見つからないし案外抜け出すことは平気だけれど、今日の私はわりと元気で、楽しい声を上げていたというのに、私たちは誰に見つかることもなく平和だった。
「俺は死神だから」
「うん」
「結界を張った」
厨二病のようだと、笑ってしまい、今日の別れ際、私は死神に頬をつままれることとなった。