死神は、ただ私をあちら側に連れていくものではなかった。心残りを手助けしながら軽減してくれようとする姿は、どちらかというと真逆の存在のすることだと私は思いながら、ああけれど、死ぬか死なないかまだ知らなかったのに宣告してくるし、望みはないのだと言い放つ残忍さは確かに存在そのものかもしれないけれど。
今日も今日とて、死神の那由多は全身黒い衣服を身に纏い。にこりともしない。


「私もちゃんと考えるわよ。――だけど思いつかないから、那由多も案を出してね」


「俺のなんて……」


「その中に、ピンとくるものがあるかもしれないじゃない」


知り合ってしばらく経ち、私は那由多の前では泣かなくなった。あの、一瞬でも怯む顔なんてあまり見たくないと、そこそこの情は抱いてしまった。入院してから調子は若干上向きで、思うように動けないときが現時点では減っていた。色々考えないようにしている心と相まって気のせいなだけかもしれないけれど。


隣に座る那由多を真っ直ぐに見つめてみると、途端にそっぽを向いてしまう。けれど、素直に私の提案を受け入れてくれたようで、顎を少しだけ上げ私がピンとくるかもしれないものを思案していた。
死神とは、あまり疑わない存在なのか。人間だけが猜疑心を持つのかもしれない。


「――天体観測、とか」


「いいね。素敵。けど、空を飛べるのに、那由多は星を近くで見たことがないの?」


「ちげっ、人間みたいに、下から見たことはないと思っただけだ。俺は清香の……っ」


「うん。そっか」


後日、私たちはいつもの病院の庭のベンチで星の観測会を行った。といっても、私が持ってきた天体望遠鏡をそこに立てただけで、他はいつもと何も変わらないけれど。


「こぐま座を探すのよ。そのしっぽが、多分……北極星?」


星座早見表も駆使しながら無知な二人で北極星を起点に星座を探す。けれどもいっこうに、その起点さえもわからずにいた。
おかしい。友達が、一番明るい星を探せばそれだと言ったけれど、どれも星は明るいと悩む。


「ああ? 熊みてえなのなんていないぞ」


「いるわよ。一年中見えてる星なんだから。……らしい」


「だったら清香が見つけろ」


「……うん。ないわね」


「だろ」


「所詮詳しくない私たちがやることなんてたかが知れてたってことかしら。……望遠鏡、買わなくて良かった」


「だな。天文部の友達、わざわざ持ってきてくれたんだろ。いい友達だな」


「うん。だね」