言われたとおり、そこにいたのは、もう死神ではない人間の那由多だった。
あの頃よりも随分痩せた。あの頃よりも儚くなっていて、点滴の針が刺さった手の甲が痛々しい。黒い死神装束ではなく、普通の入院着を着ていた。頬は痩けているけれど、目の下の隈がなくなった。そして、とても柔らかく微笑む。


「けど、こんなだよ、俺は。死ななかったけど状態だ。……清香とは大違いだな」


「そんなっ」


「清香が元気になって良かった」


「わっ、私もっ、那由多が生きてくれてて、人間に戻ってくれて……うれし……っ」


一旦落ち着きそうだった涙がまた再燃すると、那由多が微笑みながらまた拭ってくれる。車輪を回し近づいてくれるけれど、ベンチに移動して隣に座ってくれることは、身体が無理なようだった。


確かに、死神はもういなかった。目の前にいるのは、ただの人間の男の子。死線をきっと、何度もさ迷った。


「ごめん。俺は消えたってことにしたほうがいいって思ったんだ。どうなるかわからないやつのことで、清香に苦しんでほしくなかった。それならいっそって……。その一方で、また会えたら、今度こそ好きだって言おうって、俺、今までで一番生きようとしてたんだ。――なあ、清香」


「う、ん」


「元死神のこんな俺だけど、まだこんな状態で、まだ死からは遠ざかっていない部分もあるけど、……俺は、清香に好きだと言ってもいいものか?」


「……もう、言ってる」


「そっか。なら、清香の気持ちを、俺は知りたい」


「っ、けど私っ」


「ああ。隠すの上手くてちょっとびっくりしたけどな。でも、清香の黒い腹なんて、気にならないし綺麗なもんだよ。どんな理由だったとしても、清香が一緒にいてくれた時間は幸せで、俺には宝物だよ。だから、清香の気持ちを知りたい」


「それももう、言ってるじゃない。どうせ盗み聞きしてたでしょっ?」


「ああ。でも、それでも。もう一回。俺のほう見て」


「………………っ、那由多が好きなの」


「病めるときも健やかなるときも?」


「うんっ」


「命ある限り」


「たとえどんな命だったとしても、ある限り、嫌だけどたとえなくなっても、真心を尽くすことを誓うわ」


両手をとられ繋がれた。那由多の左手首にコバルトブルーの輪っかが揺れるのを二人で見つめて笑い合う。初めて昼間の空の下で見る那由多の姿は、瞳の色が夜とは違っていて、少しだけ黒にグレーが混じっていた。その色に見蕩れていると、那由多がもっと見ろとばかりにおでこをくっつけてくる。
触れて、そこに確かにお互いが同じ想いでいると安堵した私たちは、しばらくのときを、そのまま動けずにいた。






――END――