でも、好きだった。


「でも好きなのも本当だった。愛しくて大切で離れたくなくて。那由多に私の人生全てを捧げても構わないくらい好きだった。那由多が本当に死神で私の命を運んだとしても、那由多にならそれでも良かった。……でも、こんな汚い私じゃあ、那由多に好きだって言えなかった」


あの夜、述べた誓いの言葉は一言一句正解なものではなかったけれど、確実な覚えているのに抜いた箇所もあった。
"これを愛し"
この言葉だけは口に出来なかった。
私の気持ちなど、もう知っていたかもしれないけれど。
好きだなんて、私が言ってはいけないものだった。


那由多がいなくなって、初めて、那由多への直接的な愛の言葉を呟く。声と同時に感情まで一緒に溢れてしまい、目尻だけに留めておいた涙が、もう制御出来なくて止まらない。俯いているものだから、頬を辿らずに、涙はぽとぽとと直接地面に落ちていき吸い込まれていく。
そう簡単に、涙は止まってくれなかった。


「死神は、もういない」


「っ!?」


酷く泣いてしまっていて、人の気配に鈍感になっていた私の視界に、突然フェイスタオルが差し出される。


私は混乱して、顔を上げられずにいた。
だってそこには……


「けど、泣かないでくれると、助かる」


俯いたままの私の視界には、車椅子の車輪や足乗せ部分とそこに乗せられた私より大きな足。フェイスタオルを差し出してくれる左手には、コバルトブルーの手作りのミサンガが。


動かない私に痺れを切らしたのか、フェイスタオルは強引に顔に押し付けられた。


「……どうせ死んでく俺に好きだなんて言われても、清香が困るだけだと思って、言えなかった。でも後悔してる。同じ気持ちだって分かりあっていれば、もっと早く、こうして会いに来れてたかもって。清香が理由で元気でいられたことなんてたくさんあったのに、肝心なとこで使えなかった」


「なん、で……いるの? だって……」


「死神はもういない。誰かの死を囁いて楽しむ死神は、もういないんだ」


「っ、那由多っ」