私は那由多のことを、私より可哀想な子だと思うことで、自分を保っていた。
私より可哀想な子がいるのだから、私はもっと頑張らないと。私より可哀想な子のために。私が一緒にいてあげる。彼の願いを、したいことを叶えてあげるんだ。彼は辛いのにこんなに堪えている。私が出来ないわけがない。
使命感をもって過ごす病室での日々は、私の気力を保たせてくれていた。……死神のそれと何が違うというのだろう。私のものは、きっと那由多よりも汚れていた。


私と那由多が一緒に夜の病院の庭で発見されたというのに、寝たきりの私に誰もそのあとことを口にしなかった。話すのも辛い日々もあって、私からそれを訊ねることもままらならなかったけれど、皆それをどこかほっとしていた。
普通の病室に移れることになったのは、誓いのあの夜から数ヵ月後。退院の文字が聞けるようになった頃には、入院から一年をとっくに経過していた。
自由がきくようになり、私は訊ねた。看護師さんに、先生に、激怒された母に、私に噂を教えてくれた事情通の入院患者のおばあちゃんに。訊ねられる限りの人には他にも全て試みてみたけれど、全員が全員、同じことを言う頃には、私はどこか諦めてもいた。


死神は、もういない。


真夜中、車椅子で初めて最上階の特別室に向かった。ネームプレートがないことに身体が震え、けれど個人情報保護法だとか理由を並べながら部屋への扉を開ける。抵抗なく開いたその部屋の中には、誰もいなかった。使われてもいなかった。
私はそこで、那由多の死を認めるしかなくなってしまった。




「ごめんなさい……」


あの、病院の庭のベンチに座って独りごちる。


退院しても、まだまだ通院の必要はあって、まだ無理は出来ずにいる。毎週毎週をもう何度続けたか、わりと頻繁に通わなければいけないこの場所は、正直気持ちが辛い。けれど、通う度、ここに足を向けずにはいられなかった。
那由多を忘れることなんて、出来ない……。


「ごめんなさい……那由多」


那由多のことを思い出す。思い出さなくても、いつも彼は私の中にいて。
ベンチに座って俯くと、視界が涙で歪む。


「那由多を可哀想に扱ってごめんなさい……私は私だけで自分を奮い立たせなくちゃいけなかったのに。那由多が私といたいって思ってくれればくれるほど、那由多が心を開いてくれるほど、私は優越感に浸って、生きる意味をそこに見つけてた。私は那由多をたくさん利用していた……」