「那由多が考えて?」


「はあ?」


「私、思いつかないの」


「なんでだ」


「だって突然病院に放り込まれたから。だから、三年になったらあと少ししかない部活力入れようとか、大学受験頑張ろうとか友達にも決意表明してたのに、とかそういう悔しさが勝っちゃって……上手く考えが纏まらない」


死神の那由多との五度目の夜のこと。
消灯後病室から抜け出し、初めて那由多と出会った病院の庭にあるベンチにて彼と会う。べつに、待ち合わせてはいない。そこへ行くと、那由多が居たりあとからやって来たりするだけ。場所を変えたら会わないのかも、なんてことが頭をよぎり毎度あのベンチに足を運んでしまうなんてこと……ないとは言い切れないけれど。


ただ、なんとなく。
そう。暇潰しだ。
突然病気だと言われたのは高校三年生になる直前のこと。突然私は病人となり、三年生の教室に通うことも出来なくなった。
ぽっかりと空いてしまった心の一部分を埋めるために、きっと私はこうして那由多と会う。


だってそうしないと、またあの不安が押し寄せてしまうから。
だってそうしないと、また泣いてしまう。


那由多と初めてこの病院の庭のベンチで出会った日は、私の入院一週間目の夜のことだった。
軽い貧血で動けなくなり、近所のかかりつけ医から始まり、翌日にはこの大きな病院に紹介状を持って通院となった。それからほどなくして検査入院になり、一週間後、私は、少しばかり、重い病気を身体に抱えているのだと診断された。不治の病ではない。けれど、簡単に治るものでもなかった。
"死"が、わりと簡単に、身近に、こんなにも簡単に、寄り添っているものだと、身を以て知る。


病気の詳細は正直まだ全然わからない。怖くて今以上の知識を得るのに酷く抵抗があった。
ただ漠然としていても、死を短い人生の中で一番感じてしまった恐怖は、夜を眠れなくさせ、病室を飛び出させた。
何もわからないのに怖さだけは膨れ上がっていき、私は静かな夜の中、件のベンチで泣いていた。


「泣くな」


私にぶっきらぼうに声を掛けてきたのが、那由多だった。
死神だと名乗る彼は隣に座り、私の担当だとか言いながら、"死"に対する心構えを説いていく。淡々と説いて説いて、私の涙が止まるまでそれは続いた。そうしてあとは、私の残り時間を有効に活用出来るようにと、手を差し伸べてきたのだった。
しかめっ面で、ぶっきらぼうに。