そんな日がずっと続けばいいと願っていたけれど……。




「もう会えなくなる……」


「……え?」


絞り出した問いの声は震えていた。いつもと同じような夜なのに、そこから放り出されて異次元にいるみたいな違和感をもつ。何処かに消えてしまいそうだ。
那由多はそんな私の手を、引き留めるみたいに掴んでくれながら、唇を噛んでいた。


「死神はもうすぐ消える」


「っ、やだっ」


「俺はこの世からいなくなる」


「やだっ! だって那由多は……っ」


「怖くはあった。でも、後悔なんてないと思ってた……清香に会うまでは」


「っ」


「なんでだろうな。清香といると、覚悟が全部覆されていくんだ。消えたくもないけど、嫌なんだよ、清香と会えなくなるのが」


その日の那由多は、その言葉が嘘とは微塵も思わせないほどに蒼白の肌の色をしていた。駄々をこね拒否の意を示した私の動きに、掴まれていた手はあっさり解ける。那由多はもう一度繋ごうとはしてくれず……もしかしたらそんな力ももうないのかと怖くなる。


"死"を、一番強く近くに感じた。


那由多にも。


私にも。


――その日の昼間、これからの治療方針の見極めの報告と色々な検査の結果が出たこともあって、両親も揃って主治医の先生と話をした。
入院する前も、この病気の名前を知ってはいた。おぼろげに、どんなふうになっていくのかも。自分が当事者になってからは怖くて細かいことを知っていかないようにした。知ってどうなるのだと思い、ただ与えられる検査や薬を受け入れるだけだった。


辛いときはあります。ですが、乗り越えていきましょう――先生の言葉に、はいと頷く以外に何が出来ただろう。


「どうしたらいいんだろうな」


「那由多」


「ずっと清香といたいって、夢見た。叶うなら、死神でなくなってもいいって思った」


「私だって!」


「俺がそんなこと思うようになるなんて想定外で。けど死神じゃない俺は、この世に居場所なんかなくて終わりを意味することを、少し、忘れてた」


「終わりをなくすことだって出来るよっ! だって那由多は……っ」


抗う私も、もう起き上がるのも辛い。昼間の話で、その気力さえも失われつつあった。


辛そうにに立っているままな那由多が、私のこねる駄々に力なく笑う。今までで一番多く出してくれる表情が今だなんて、そんなのは嫌だ。


「清香は本当に馬鹿だなあ。でも、そう言ってもらえるのは本当に初めてで、すごく幸せだ」


今、そんな幸せそうにしないで。


那由多が、もっと幸せになってくれれば、消えないでいてくれるだろうか。たとえ死神でなくなっても、那由多はちゃんと意味をもつ。
私が繋ぎとめる一部になれるだろうか。那由多が諦めないものに私がなれば。
それは、今の私にとってもきっと。


「――那由多。那由多、私と誓いを結ぼう」