「那由多は、どうして死神になったの?」
夜のお茶会。場所はもうずっと私の病室だ。ベッドの周りを歩ける元気くらいは出てきた私にとって、まだ外はあまり良い環境とはいえなかったから。
日中は汗ばむ日も増えたかた。夜ならきっと気持ちがいいと訴える私を那由多が制する。その反対の仕方は、およそ死神とは別のものだった。
変わらない全身黒の死神装束はそもう確実に暑いと思うけれど、那由多は袖さえ捲ろうとしない。きっと青白い肌のせいで、手首や腕の血管は鮮明に見えるのだろうと推測する。
確かめてみようと伸ばした腕は咎められなかった。けれど、触れた手から感じる体温がとても低かったことに驚いて、それ以上のことは出来なかった。
「那由多」
どうして拒まなかったの?
その言葉は口から出てこなかった。
「……なんだ?」
那由多は、どうやら私の行動に驚いて硬直してしまっていたみたいで。拒まれなかったのはそのせいらしい。
そんな表情のまま、瞳だけが動いて私を捉える。そうしてすぐ逸らす。
「那由多は、どうして死神になったの?」
「なんだいきなり」
「最初から死神だったの? 志願して? 気付いたら? 堕天して? ああ、それだと悪魔になっちゃうし那由多は天使だったってことになるわね……ちょっと笑える」
那由多のこれまでを知りたいと思った。本来の仕様である残酷な面とは別に、人を労ってくれる死神。ぶっきらぼうなのは人との関わり方を知らないのでは、と思う。それはただの人見知りの子どもみたいにも見えて、とても愛おしい。
徐々に慣れてきてくれて、私のことを心配してくれて、甘いお菓子を一口で頬張り好みのものだと目をいつもより見開く那由多。口の悪さを密かに気にしているけれど直せない那由多。私を気長に待ってくれる那由多。優しい那由多。寂しがりな那由多。
那由多が必ず私をベンチから見送るのは、きっと残される寂しい気持ちを充分に知っているからだと思う。病室から帰るとき私が眠るまでいてくれるのは、本当は自分がそうしてほしかったから?
そんな死神が私は愛おしい。
あなたのことを、もっと知りたいと思った。
ふたつめの水まんじゅうの咀嚼を終えた那由多が、俯きしばらくの間考え再び上げた顔には、苦しんで苦しんで、そうして自嘲するような薄笑いを浮かべていた。
咄嗟に、私は那由多の手首をとる。そうしないと那由多が崩れ落ちてしまいそうなくらいに儚く見えて。私はただの死にかけの無力な人間でも、この世界とを繋ぐ一本の細い糸になれればと思った。