結果として、私の望みは叶えられた。
ただ、極端に体力が落ちてしまい、病室を抜け出すことは難しくなってしまった。日中も夜も、ベッドの上にいてしまう。だから、那由多が私の病室まで訪ねてきてくれるようになった。死神は院内に入っても大丈夫なのかと、そんな心配事は本にも映画にも無かったけれど訊いてみれば、案の定な顔をされてしまった。……来てくれることに興奮して口走ってしまっただけだ。
那由多と、場所こそ違えどこうして会えていることを、嬉しい反面何故続けていられるのだろうと考えたけれど、多分、彼の真面目な性格による死神としての任務の遂行のためだろう。
病院の庭のベンチのときと同じ時刻、音もなく現れては備え付けの椅子に座る那由多。
私は、那由多が来ても眠っている日もあったらしい。そんなときのお詫びのようなものとして、私は彼のために甘いお菓子を常備しておくようになった。先生にも了承してもらったこれなら怪しまれない、たとえ減っていても問題のないものを。
「今日は、水まんじゅうを用意したの」
「なんだそれ」
「岐阜の夏の和菓子でね、葛粉とかわらび粉で作った透明な生地で餡を包んである冷たいお菓子なの。お店に行くと、冷たい地下水を汲み上げた専用のプールみたいなところに水まんじゅうが浮かんでて涼しげで、とっても美味しそうなのを一度みたことあるんだよ。親戚が岐阜にいてね」
「ふうん」
私のうんちくなどまるで興味がなさそうに、一口で水まんじゅうを平らげてしまった那由多だったけれど、どうやら好みのお味だったようで、その目がいつもより少しだけ大きく開かれる。
この病室での時間は夜空をあまり仰げず、声も以前より抑えて過ごさなければいけない。だからなのか、なんとなく、お茶会めいたことが殆どとなってしまった。
「お口に合ってなにより」
「ああ。旨い」
けれど、案外甘いもの好きだったらしい那由多もこの催しを気に入ってくれているようだし、なんだか若干素直になってくれた彼との夜のお茶会は概ね順調だった。
那由多の満足した顔を見ると、私の心は相も変わらず不思議と満ち足りる。明日はもう少し、元気になれる気がする。
「今度友達が、那由多が食べたいって言ってたシフォンケーキに並ぶって宣言してたから、私の分もお願いしちゃった」
「俺は別に……」
「死神は行列に並べないでしょう?」
「……」
以前より素直になってくれたことで、なんでもない雑談を話すことも増え、そこで那由多のささやかな可愛い願望を知った。珍しい人気のスイーツたちもそのひとつで。私は、どうしてもそれを叶えたくてたまらなくなった。
「私も、那由多と一緒に食べたかったから」
弱った心身に、それは確実に大きな活力となっている。
那由多がそんな私をどう思っているのだろう。
狭間で迷ってしまえばいいと、黒い腹の私は心で思っていた。