私は今、死神の隣で残り少ない人生のひとときを過ごしている。
「清香はもうすぐ死ぬよ」
「うん」
「覚悟をするんだ」
「そ、っか」
「やり残したことを、ひとつでも多く、今のうちに叶えていけよ」
「……外出許可は出ないから、出来ることもたかが知れているわね」
「そうかもな。でも、それでもだ」
協力してやる――死神と、自らを名乗る彼はぶっきらぼうにそう呟いた。
歳は私と同じくらいだと思う。まあ、"死神"なのだから年齢なんてあってないようなものかもしれないけれど。
羨むくらいにさらさらで絡むことなんかないだろう黒髪が、まだ少し肌寒い夜風に揺れる。真っ黒な瞳の色は夜闇を取り込んだようで、一度太陽の下で拝んだら他の色も加わるのか確認してもみたいけれど、彼と会えるのは夜だけらしい。死神だからと、彼は言う。
「協力してやるから、清香は思い残すことなんかないように、やりたいことをやれ。……そのために俺はこうして来たんだから」
シャツも細身のパンツも黒色、オシャレすぎるロングカーディガンも黒、靴も同色で、彼は可笑しなかんじのイマドキの死神っぽかった。翼はないのかと訊ねたら、仕舞っているだけだとそっぽを向く。
出会ってからしばらくの時間を過ごしていても相変わらずぶっきらぼうな様子に嫌な気持ちにならなかったのは、くしゃみをした私に黒のカーディガンを投げてよこす行動や、私が泣きそうになり顔を歪める度一瞬怯む表情に、優しい部分を見出だしてしまい、それを無視出来なくなってしまったから。
「もう今日は遅いから病室に戻れ。もうすぐ巡回もあるしな」
「よく知ってるのね」
「視えるんだよ、死神だから。今なら見つからないはずだ」
「ならそうするわ」
立ち上がり、しばらく歩いてから振り返った。すると、死神の彼は別れた場所から動かずに私を見送っていて。
「早く帰れ」
睨みをきかせ凄んでくる。
「貴方の名前を教えてくれたら帰ってあげる」
小さな声で教えてくれた彼の名前を声にして、私は今日の別れを告げた。
そうして、これからしばらくの時を、私は彼と過ごすこととなる。
「またね。那由多」