「奈々瀬ちゃんとは会ったのか?」

「会ってないけど、いいよ。」

「よくないよ。」

珍しな。

想がムキになるなんて。


「会ってやってくれよ。頼むよ、祐輔。」

だからこいつは、いつまでたっても奈々瀬を、自分のものにできなんだよな。

「はいはい。」

僕は想が言う通りに、奈々瀬の部屋に向かった。


「奈々瀬?」

「あれ?祐輔。あ、そうか。今日だもんね、引越し。」

奈々瀬は普段通りに、明るく振る舞っていた。

「ああ……想が奈々瀬に会っていけって言うから。」

奈々瀬はそれでも笑顔で、僕を迎えてくれた。

ふと机の上に視線を置くと、僕と写った写真はなくなっていた。

「写真、捨てたのか?」

「しまってあるだけよ、捨てるわけないでしょ。」

「あっ、そうか」

そこまでするような女じゃないか。

奈々瀬は。

「元気でね。」

最初にそう言ったのは、奈々瀬の方だった。

「奈々瀬も。」

僕もそう言って、部屋を出ようとした。