高校を卒業した春。

僕は音大に通う為に、家を出ることになった。

「家から通える音大なんて、たくさんあったでしょうに。」

母は最近、こればかり言っていた。

「母さんは、息子が有名なピアニストになることに反対なの?」

僕がそう言うと決まって、

「そうよね、仕方ないわね。」

そう自分に、言い聞かせるように言葉にしていた。


「荷造りはすんだ?」

僕が引っ越しの準備をしているところへ、想がやってきた。

彼もこの春に寮を出ていくのだが、もう画家として暮らしていくだけの、経済力はあった。

「もう少しで終わる。」

ガムテープをダンボールに貼り、隣の箱に乗せた。

「祐輔、落ち着いたら連絡くれよ。」

「ああ、お前もな。想。」

思い返して見れば、想と初めて会った時は、とても気が合うようなヤツだとは、思えなかったのにな。