「オーケストラに入りたいんだ。」

三年生になった僕は、奈々瀬と想に、そんな話をするようになった。

「僕も頑張んなきゃな。祐輔に負けてなんかいられない。」

想はやっぱり絵の才能があったみたいで、高校生のくせに、もう彼の絵は市場に出回っていた。

「私も頑張ろう。いつか、祐輔と共演できるように。」

あの後、奈々瀬には僕から話して、婚約の話は無くしてもらった。

奈々瀬は裏で相当泣いたらしいが、僕の前で彼女は、いつもの彼女を見せていた。


「ねえ、祐輔。」

「ん?」

「先生には、ピアニストになる気はないとか言ってたくせに、結局は音楽の道に進むの?」

奈々瀬はそういう事は、細かいところまで覚えている。

「ああ、そうだよ。」

今の僕は、誰に聞かれても、堂々と答えられる。

「好きなんだ。ピアノを弾くのが。」

二人はそんな僕を、仕方ないって感じで笑っていた。