「僕は今、聞きたいんです。」

父は、いつもとは違う僕の態度を、不思議に思ったかもしれない。

「早川先生を、知っていますよね。」

父はその名前に、目を細めた。

「どうしてお前が知ってる?」

「ピアノ科の僕が、先生と知り合う事はないですからね。」

だからこそ、先生をこの学校で、雇っていたのかもしれない。

美術の講師だったら、同じ講師である母とも、会わずにすむだろうし。


「先生は、父さんに捨てられたと言ってましたよ。」

父さんは笑っていた。

「息子とこんな話をするとはな。」

「誤魔化さないで下さい。」

「別れた女というのは、大抵そういうふうに言うものなんだ。」

だから仕方ないとでも言うのか?

「父さんにとって、才能って何なんですか?」

父さんは答えてくれない。