ある春の日。

僕は父の書斎を訪ねた。

僕がここに来るのは、小学生以来だった。

「父さん……」

僕の声に、父は相当驚いていた。

「なんだ急に。どうした?」

僕が何も言わずに、立ち尽くしていると、父は嬉しそうに、僕に手招きをした。

「珍しいじゃないか。祐輔がここに来るなんて。さ、こっちへ来て座りなさい。」


僕はゆっくり父の前にある、椅子へ座った。

父は読んでいた本を閉じ、机の上に置いた。


「父さんにどうしても、聞きたい事があって……」

「何でも聞きなさい。」

「父さんはどうして、この学校を作ったんですか?」

父は呆気にとられているようだった。

「何かと思えば、そんな事か。」

「どうしても聞きたいんです。」


父にどうでもいい事でも、僕にはとても大切な事だった。

「おいおい話してやろう。」

そう言って父は、読んでいた本に、手を伸ばした。