自分の親ながら、馬鹿な母親だ。

そう思って、リビングを離れようとすると、僕はまた同じ感覚に襲われた。

「私にとっては、あの子に嫌われる事よりも、あなたに捨てられる事の方が、何よりも怖かったのよ。」

部屋に戻った僕は、母親と奈々瀬が口にした言葉を、思いだしていた。

捨てられる。

二人とも、ピアノの腕が少し落ちたぐらいで、そんな事ありえないのに、なぜそれほどまでに、恐れるのか。

今の俺には、答えが見つからなかった。


次の日、僕は家の一階にある音楽室を訪ねた。

日曜日だったけれど、なんとなく奈々瀬がいるような気がしたからだ。

扉の向こうは、ひっそりとしていて、誰の姿もなかった。

なんとなくほっとして、音楽室を出ようとすると、扉が開き、そこにはヤツが立っていた。