母は何故か、うなだれていた。

「奈々瀬に言われたわ。祐輔は本当の自分を隠しているだけだって。」

「香澄……」

父は母の背中を、何度もさすっていた。

「だとしたら、それは私のせいだわ。」

「そんな事ない。君は母親としてよくやっているよ。」

「祐輔が小学校に上がって、初めてコンテストに出た時のことを覚えてる?」

「ああ。」

「優勝トロフィーを持ってきた祐輔を、私は抱きしめることができなかった。」

母はそう言って、涙を流した。

「私は、わずか6歳の自分の息子に嫉妬したのよ。同じピアニストとして、祐輔に敵わないと思ってしまったのよ。」

そんな……母が僕に嫉妬していたなんて……

「私が祐輔を産んだのは二十歳の時。まだまだ活躍できる。私の方がこの子よりも上だと、認められたかった。」