母親に奈々瀬と結婚したら?

と言われた頃の写真。

大人になれば母も奈々瀬も、忘れてしまう約束だと決め付けていた。

だけどいつからか、奈々瀬はその約束を、忘れずに胸に秘め続けていた。


「祐輔……」

奈々瀬はずっと、僕の婚約者でい続ける為に、それだけの為に、ピアノを引き続けていたんだ。

奈々瀬の部屋から、自分の部屋に戻ろうとした時、リビングに両親の姿があるのを見つけた。

こんな時間まで、二人だけでいるなんて、珍しかった。

父と母が一緒にいる姿を、何年も見ていなかったからだ。

自分で自分が、ほっとするのが分かった。

そして自分の部屋に戻ろうとした時、母はぽつりぽつりと話を始めた。

「祐輔の音楽を、久々に聴いたわ。」

昼間のあの中に、母親もいたんだ。

「あの子の音は感情のない、無機質なものだとばかり思っていた。だけど、今日の音は違った。柔らかくて、聴く人の心に直接届く音よ。」