僕が先生を連れてきた場所、そこは音楽室だった。

幸いそこには誰もいなくて、僕はほっとした。


ピアノに一番近い席に先生を座らせ、僕はピアノの前に座り、蓋を開けた。

僕が一番避けてた事、それはピアノを弾くことじゃなかった。

誰かの為に、大切な人の為に、音を奏でることなんだ。

そして、僕はもう一度、誰かの為に音を奏でたい。

今は先生の為に。


僕が弾いた曲は、戦争で遠くに行った男が、故郷に残した恋人にあてた曲。

“遠く離れていても

気持ちはすぐ側にあるから

だから泣かないで“

という曲だった。


弾き終わった後、先生は立ち上がって、大きな拍手をくれた。

そして一番驚いたのは、僕が知らない間に、音楽室の後ろに生徒が、たくさん集まっていた事だった。

「すげえな。」

「本当は才能あったんだ。」