「どうしてあなたは、そんな弾き方しかできないの?」

「どうして?」

「昔の祐輔は、そんな弾き方ではなかったわ。」

「昔?昔っていつだよ。」

だんだん先生と先生から、母親と息子になっていた。


「祐輔?」

「もううんざり。別に、ピアニストになりたいわけじゃないし。」

そんなこと言っても、将来何になりたいっていうのもなかった。

ただただ、他の子供じゃなくて、血が繋がっている俺を、見て欲しいだけだったんだ。


次の日、僕の足は美術室へ向かっていた。

今日はなんだか、先生に会いたかったからだ。

美術室の前で、深呼吸をして、僕はドアを開けた。

「祐輔君。」

先生は僕の顔を、覚えてくれていた。

「なかなか来ないから、私の事忘れちゃったのかと思ったわよ。」

「そんな事ないです。」

人の笑顔に接するのは、久しぶりのような気がした。