「祐輔の腕は確かにいいかもしれない。だけど、音楽はそれだけじゃないの。心も必要なの。祐輔の音は、無機質で単一で感情がない。ロボットみたいなものよ。」

奈々瀬はそんな母親に、訴えるように話した。

「祐輔の音は、柔らかくて、優しくて、人を包むように暖かい。もし、先生が違うとおっしゃるなら、それはたぶん……」

「たぶん?」

「祐輔が、本当の心を、隠しているんだと思います。」

彼女は、僕が小学校からの同級生。

そして同じ先生から教わった同士。

気付けば隣にいる存在。

僕がうっとおしく思う一方で、奈々瀬は僕の、一番の理解者になっていたのかもしれない。


日曜日。

僕はいつも通り、家ではなく、寮の学食に朝ごはんを食べに行った。

そこには寮生である奈々瀬もいた。

「祐輔。」

手を上げて、俺を呼んでいる。

僕は何も言わずに、奈々瀬の目の前に座った。

何も知らない人が見たら、僕と奈々瀬の関係を、誤解するだろうな。