「えっと、この話は篠崎さんが体験した話ってこと?」

「うん、そうだよ」

あの世界を生きていた人が目の前に――。

本を読んだ印象では、彼はもっと年齢の高い人だと思っていた。
でも、彼が高校三年生だというなら、彼女も高校生なのかもしれない。

「彼女って、どんな人なの? こんなことを言うと変に思われるかもしれないけど、なんだか私と似ている気がしていて」

本を読んでいるとき、私は彼女と自分を知らず知らずのうちに重ねていた。

なんとなく考え方が似ている気がして。だからこそ私はこの物語に惹かれていたのかもしれない。

「どんな人? そうだなぁ。その本に書かれたとおりの人だよ。優しくて、可愛くて、臆病で不器用なところもあるけれど芯が強い人だった」

「だった?」

彼の発言に違和感を覚える。
思わず聞き返してしまったけれど、私はハッとして口を噤んだ。

彼の表情が一瞬暗くなった気がしたのだ。
聞いてはいけないことだったかと、ちらりとそちらを見やった。

彼は少し黙り込んで、私をただじっと見つめたままかすかに笑った。

その目はどこか遠くを見ていて、少し困ったような顔をしていた。

私も何も言えなくなり、同じようにただ彼を見つめ返した。