「私が?」

彼がゆっくりと頷く。

「だから、文乃さんともっと一緒に居たくなって……」と静かな口調で続ける。

初対面なのに、真っ直ぐ私を求めるような目。

私は彼女じゃないのに、重ねてでも一緒に居たいと願ったのかと思うと、途端に胸がキュウっと苦しくなった。

本を読んだことでふたりの関係の深さを少なからず知ってしまったから、心臓が痛い。

あの物語の中で、ふたりは本当に幸せそうに描かれていたから。

もしとても大好きだった恋人が亡くなって、その恋人に似た人が現れたら、確かに気になるだろう。
そして一緒に居たいと思ってしまうかもしれない。

自分なら声を掛けることはできないけれど、後を追いかけるくらいはするだろう。

もし彼の言う事が本当なら、その提案に付き合ってあげるくらい良いのかもしれない。

だけど……。


「彼女と似ている私と一緒に居たら、逆に思い出して悲しくならないの?」

もし一緒にいるせいで苦しくなったり悲しくなったりするようなら、逆に申し訳ない。

けれど彼は優しく微笑んで、首を横に振った。


「それは無いよ。言ったでしょう。彼女の死はちゃんと受け入れているって。ただ彼女と似ている文乃さんと話してみたいって思ったんだ」

そう言って彼は私の手元にあった本を取り上げた。