「私……と?」

「うん。文乃さんじゃなきゃダメなんだ」

彼が深く頷く。
真剣な表情に私は少したじろいだ。

「……なんで、私の名前」

そう聞くと彼はすぐさま私の胸元を指さした。

そこには学生証がかけられていて、私の芽野(めの)文乃という名前が書かれていた。

理由が分かって顔を上げると、彼が私の近くまで歩み寄ってきた。

「どうかな? 僕のお願い聞いてくれる?」

彼との距離が一気に近くなって、私は戸惑った。

「どうして私じゃなきゃダメなの?」

この本の作者だと知らされたとはいえ、目の前にいる彼はついさっき出逢ったばかりの高校生。

今日のオープンキャンパスに来たということくらいしか知らない。

そもそも、本当に作者なのかどうかもわかっていないのに。
見ず知らずの人についていくなんて、小学生だってしないだろう。

私は言葉に詰まって、彼の様子をうかがったけれど、彼もどこか困惑しているようだった。

そして、私の手元にある『僕は君と、本の世界で恋をした』を一度見て、それからまた私へ視線を戻す。

「本当のことを言うと、文乃さんを見たとき、息が止まるほど驚いたんだ」

彼はつぶやくようにそっと口を開いた。

「……彼女と似ていたから」