「……もういないんだ」

彼のその一言が、痛みとともに刺さった。

「彼女はもう亡くなっているから」

私は続けるべき言葉を見つけられなくて、そのまま口を閉ざす。

本の中に描かれていた彼女には親近感が湧いていたし、実際にいるのなら会ってみたいとも思った。
それなのに、もう彼女は居ないなんて……。

「そんな辛そうな顔しないで。少なくとも僕は彼女の死をちゃんと受け入れているから」

さっきとは打って変わって、とても落ち着いた表情に戻り、彼は私に優しく笑いかけた。

「……そうなの?」

「うん。だから君も暗い気持ちにならないで」

そう言ったあと、彼は突然思い付いたような顔をして、「ねぇ、お願いがあるんだけど聞いてくれる?」と口にした。

「お願い?」

「僕ね。君とこの本の世界を辿ってみたいんだ」

少し弾んだ声が私の心を捉えた。

「え?」

「この本に書かれている場所へ、僕と一緒に行ってくれない?」

澄んだ瞳が私に真っ直ぐ注がれる。

突然のことに私はただ困惑したけれど、彼から目を逸らすことができなかった。