「なんて、冗談に決まってんじゃん。それしてもらって私になんの得あんの、二人の関係試しただけー。真剣な顔しちゃって、マジウケる」
ちゃんとパパには聞いておくから心配しないでーって、鈴木さんは笑顔で手を振って教室を出て行った。
その瞬間、作業に勤しんでいたクラスメイト全員が日野に集中していたのだけれど、私がハッとして見回した瞬間サッ、と作業に戻る。やがてがやがやとまた騒ぎ出す教室に、日野の表情は見えなくて。
その後はそんな形で、何があるわけでもなく、丸く事態は収まった。
後日、鈴木さんがお父さんに口を聞いてくれたおかげでバルーンリリースの許可が降り、その真意をあらかじめ鈴木さんに伝えておいたことも功を奏した。みんなにはまだ言ってないけど早く言いたいなと思う。そうそう、バルーンを膨らませるヘリウムガスに関しても、鈴木俊宗市長の古くからの友人さんが工場で使用しているものを安く貸してくれることになり、予算内でそれを学校まで運び入れてくれることになった。
半倉庫化した特別準備室に無機質なヘリウムガスのボンベがたくさん並び、その作業を見守るうちにクラスメイト達も手伝ってくれるようになった。
もう勝手にしろ、と半ば諦めの気持ちだったかもしれない。でもむず痒くて気恥ずかしさの中に、やってよかった、という思いが私の中で確かにあった。
薮内くんは文化祭の日、多分学校には来ない。
なら自宅の窓からでも、空に浮かぶバルーンリリースが見られればいいと思う。
「多香、そっちの風船貸して」
「おけ」
「な、“あれ”は?まだあんの」
「わんさか」
文化祭の、二日前。
今日明日と全授業が文化祭準備にあてられるその日、私と日野は特別教室に二人きりで、ただひたすらバルーンにヘリウムガスを入れる作業に没頭していた。