「………そんでまたここに戻ってくんのか」


 放課後の教室、私たちのクラスでわいきゃいと楽しそうにアミューズメントパークの装飾に取り組む、根明系軍団鈴木さん一行。相変わらずきらきらだー、と教室の後ろの扉で口を開けていると、同じく屈んでいた日野に顎を持ち上げられる。

「ね、行こうよ日野」

「やだ。すげーやだ。おれ嫌いなんだよ人生そこそこ上手くいってそうな生命力溢れてる幸せ満載な人間」

「…病んでんのか?」

「どうとでも言え。で、多香がいけ」

「え、なんでさ!せっかくここまで二人でやって来たのに」

「しぃっ!お前声でか」

「あれー?二人もう帰って来てたんだ?」


 ほら見ろ、と顔を覆う日野に、きょとんと顔を上げる私。ばっちり一部始終目撃されてたのか、根明系パーティピープル鈴木さんにみっけー、と笑われてしまった。

 日野が使い物にならなくなったし、文化祭まで時間もないし、プライドなんかは金にもならない。だから鈴木さんやその取り巻きたちがいる中で、私は素直に鈴木さんに事の顛末を話した。かくかくしかじかで、と身振り手振りで伝えた私に鈴木さんは腕組みをしながら、時折面倒くさそうに自身の髪を弄びながら、それでも最後まで聞いてくれた。

 そして。


「…………要するにパパに聞いてみりゃいいんでしょ?いいけど別に」

「ほんと!?」

「ただし条件がある」


 うぇーいよくあるパターン。ちょっと予想してただけにごく、と唾を飲み込んで前のめりになる私に、鈴木さんは髪を手の甲で翻してから黙って聞いていた日野を見る。


「日野くん、私にキスしてよ」

「は!?」


 なにそのハッピーイベント。マジか。マジか!?

 他の誰よりも大声で驚いた日野は、それでも一度目を伏せて、一歩踏み出し私の前に立つ。ああ、そっか。ちゅーだったら私でも出来るけど、でも多分同姓にされたって嬉しくないもんな。どうすんだろ。すんのか、しないのか。

 日野の、私より少し高い後ろ姿。その襟足を見ていたらぱっ、と鈴木さんが手を上げた。