「で、旦那は次どこへ向かってるんで」
「学校。あとは市の許可がいる」
「し?」
「いきなり無許可で学校が風船なんか飛ばしたらみんなびっくりすんだろ」
「なる」
「まずは校長に掛け合って市の許可が取れるか聞いてみよう」
❀
「無理だね」
「ですよね」
例によって笑顔かつ朗らかなに校長に言われて踵を返す。パタン、と校長室の扉を閉じてから日野の胸ぐらを掴んだ。
「諦めんの早っ!?」
「校長だったら市長とかに口聞いてもらえると思ったんだよ。あの温厚な校長の言うことだ、嘘はないし無理だって言うんだから面識ないか犬猿の仲かどっちかだ。確か学年一緒だったろ市長と、仲良くないんじゃない」
「そんなん!今順風満帆で軌道に乗ってたのに押さなきゃ倒れるもんも倒れねーよ!」
「別に順風満帆じゃない奇跡だよあんなのは。風船ゲット出来た時点でおれたち多分現実歩けてないわ」
「だ、だったら直談判しに行こ」
「一介の高校生の話を市長が聞くかな。ただでさえ忙しい仕事の合間を縫って」
至近距離で日野を壁に押し付けることで壁ドンしてるみたいになって、放課後に職員室前廊下でそんなことをしてるもんだから通りかかった生徒にひゃーっと声をあげられた。違う。これそう言うんでなくて。
パッ、と日野のカッターシャツから手を離した私は顔を覆う。日野からはもっかいため息が聞こえて、頭をフル稼働させようにももういい案が出そうにない。
「………鈴木さんがお父さんに頼んでさえくれたらたぶん話は速いんだけど」
「…鈴木ってどの鈴木よ」
「私にネズミーランドのおみやくれた鈴木さん。市長の鈴木俊宗って鈴木さんのお父さんだよ」
「何故それを早く言わない」
「だめだって日野こんなところじゃ」
みんな見てますよ、と胸ぐら掴んで壁ドンしてくる日野に棒読みで言ったらまたしても通り過がりの生徒にきゃーっと黄色い声を上げられた。