「なんよ」
「なんも」
「んだよニヤニヤして気持ち悪いな。あ、いつもか」
蹴り飛ばす。華麗にフレームアウトした日野が無言でベンチに這い上がった。
「日野がいんなー、と思っただけ」
「はぁ?いんだろいつも。てか喧嘩してたのも数日間。そんなにおれが恋しかったか」
「なんかそうみたいだ」
伏し目がちに言ったら、お待ちどー! と二つ括りに髪を結んだ小学生くらいの女の子がホームランバーとチョコバットを持ってきてくれた。誰だろうこの子は。にこにこしながらお盆に乗せたお皿をベンチに置くその子を見ながら、未だにぽかんとしている日野にチョコバットを突っ込む。
お盆を持ったままもじもじしていたその子は私と日野を交互に見るなり、いいなー!と声をあげた。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんカップルー?なかよしー?」
「え。あ、うん、そうだよ、なかよし」
「きゃー!すっごくお似合い!お姉ちゃん可愛いし、お兄ちゃんもかっこいい!久美子もね、高校生になったら王子様と結婚するんだー!」
「そか。グッジョブ」
よくわからなかったので親指をいいね、と立ててみたら、味わってねー、とぶんぶん手を振りながら奥に入ってしまった。多分ごゆっくりー的なことを言いたかったんだろうな。
可愛い、と思いつつホームランバーのアルミ箔をぺり、と剥がす。その辺りで固まっていた日野も気を取り戻したのか、隣からサク、と口に咥えていたチョコバットを齧る音がした。
「な、日野。今の子知ってる?」
「久美子ちゃんだろ」
「知ってるの?」
「知らんけど。久美子って名乗ってたから久美子ちゃんなんだろ」
認知度の低さが私と同じだぞそれ。挙句口パッサパサんなる、といつも食べてるくせしてこの夏日な今日に自分のパサパサミスチョイスに今更気づいた日野は、いつもならじっくり堪能するチョコバットをさっさと食べてしまった。
んで指についたチョコを舐めてからひとくち、って人のホームランバーを求めてくるから、まだ食べてないのにと思いつつちょっと当てがってやる。日野が齧ってから、私もぱくりと今日のホームランバーの味を堪能した。
「なあ、至福のひとときのとこ悪いんだけどちょっとさっきから気になってたこと聞いていい」
「え、いやだ」
「お前さっきから店員に風船の使用数伝える時統一感なさすぎ」
嫌だって言ったのにゴリ押ししやがった。そしてその言葉にぎく、と姿勢を正した私はよくわからない、とホームランバーを舐める。