「てか、なんで風船が必要なんだ」
「聞きたい?ねえねえ聞きたい?」
「そこまで詰め寄られると逆に聞きたくなくなるな」
「やめろ多香。てっさんはな、仕事で忙しいんだ。無駄に年取っただけのこんな大人になりたくなかったら今出来ることをやろう」
「颯太お前ツケてる分の部品代6,800円耳揃えて今すぐ払え」
「っお───しここに風船がないと分かれば次だ次、いこーぜ多香」
「おっけーダーリン」
ぷんぷんしているてっさんにばいばいなー、と手を振って自転車を走らせる。
振り向いた景色に風を感じながら、小さくなる大澤工具店や街をただひたすらに眺めていた。速度を上げて走る自転車がちょっとした段差で弾むと、その拍子に日野のお腹に手を回す。
嫌がられると思ったのに日野は何の反応も示さなかったから、これが正解だったみたいだ。
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その後も、風船が調達出来そうな店舗を点々と回った。あんな風にクラスメイトに豪語した手前タダで帰る訳にはいかなったからだ。いくら学校で作業すんのが嫌だから気分転換に飛び出したとあっても、まぁ日野がいりゃなんでもいい気がするけども。
でも結局その甲斐なく風船を、それも文化祭のイベントとして利用する規模の量を確保出来る店舗というのが案外見つからなくて、ネットで買おうにも意外にも割高だったりして。
途方に暮れた私たちはすっかり疲れ果ててしまっていた。
「いと婆、ホームランバー一丁」
「単位がおかしい。いとばー、おれいつもの」
やっぱ疲れた時は甘いものですよねと。行き着くままに訪れた「ゆめ屋」の、店頭のベンチに二人並べばはいよー、と中から声がする。
目を細めて隣を見れば、暑そうにカッターシャツをぱたつかせていた日野が視線に気がついて振り向いた。