日野だ。
「やっぱり!?やっぱりそうなるよね!?足立さんと言ったら、日野くんだもんね!?」
「…ひの」
きゃーっと両頬を手で包む担任そっちのけで呟く。思わず振り向いて泣きそうになったら、日野がやわらかく微笑んだ。ひの、おまえ。
「私のこと大好きかよ」
「そういうこと言うの二人の時にしてくんない」
どっと笑いが起こる。イチャつくならそといけー!なんていう野次が行き交う中、煙たそうに耳に小指を突き立てる日野、そして私が肩をすくめていると、ちょっと待ってよ、と第三者が立ち上がる。日野を一番はじめに誘った立入さんだ。
「おかしい!日野は大道具の設計担当のはずでしょ。今更そっちに移行なんて無責任だよ!」
「設計なら全部済ませたよ。ちゃんと企画書宮野さんに渡したもん」
「……そうなの?」
「あ、うん…今朝」
恐る恐る頷いては日野が渡したらしい企画書を掲げる友達の声に、青ざめる立入さん。仕事速えな、ときょとんとしていると、日野が起立した。
宮野さんからそれを受け取ると、彼はそれを直接立入さんに手渡しに行く。
そして、これは他の誰にも聞こえなかったのだけれど、小さな声で耳打ちをした。
「おれ、おれに興味ある人間嫌いなんだよね」
「っ!」
「て、ことでお役御免。行くぞ多香」
「いずこへ」
「風船調達」
「あいあいさ」
本当は必要最低限の資材調達以外は決められた外出時間以外行ってはならないのだけれど、そう言って私を攫う日野があんまり担任のツボをついたのか、「素敵!青春!」とか言ってハンカチを振っているから私も元気にばいばいきーん、とクラスメイトたちに手を振ってやった。
隣を歩くのはやっぱりこの男しかあり得ないなぁ、なんて細っこい背中を見て思ったのは秘密だ。
❀
「多香。乗れよ、うしろ」
通学に使う自転車に跨った日野がそう言うから、おうっと言ってからがしゃんと後ろに乗る。何気に後ろに乗っけてもらうのは初めてな気がする。ので、ちょっとどこ持っていいかわかんなくて荷台を持ったらジト目で振り向かれた。
「…おまえ、こういう時は普通さ」
「?」
「いや、なんもない」