「二人って、どっちから告ったの?」
話し合いの結果、クラスの出し物は5種のゲームコーナーを設けたアミューズメントパークに決まった。だけど、担任が可能な限り企画は進めてみていいと、同情票と言う名のゴーサインをくれたのだ。
今にも倒れそうなバベルの塔を支えた救世主がいたんだ。あんなドラマティックな形で。うちの純粋な担任は無下にされがちな青春に弱い。
かくして始まったふたりぼっちの無防備企画に彼は前向きに意気込んだ。
薮内くんは、口もとのほくろがチャームポイントの、色白で少し灰色がかった黒髪をした、学ランの男の子。
「…日野かなぁ」
「へえ意外」
二日目には幼馴染みかのような振る舞いで、それは兄弟や家族の枠を明らかに超えていた。どちらからともなかったけれど、決定打を打ったのは日野だ。
出逢って二週間かそこらだった。寒空の下、大澤工具店のてっさんに色目使ういとまもくれやしなかった。(使う予定もなかったけれども)
「てか突然ぶっ混んでくるね、薮内くん」
「俺、中学ん頃あいつと同じ野球部だったんだよ。女子に、てかトータル人間全部に興味無さげな日野が目をつけたってよっぽどだなーって。足立さんに単純な興味」
「そうだったんだ」
それはいいこと聞いた。薮内くんは、私の知らない日野を知ってるんだ。日野のことは、わかっているようで、実は何も知らない。今わかってるのは茶髪。170㎝。O型。足のサイズ26.5。一人っ子。新聞配達のバイトしてる。とかそんくらい。
訊いたら答えてくれるのかもだけど特別興味があるわけでもなかった。日野だって同じはずだ。きっとこの先長い人生、わかることはいくらでもあるだろうし干渉の過ぎない関係が心地よかった。
呼吸で何が言いたいかも大体わかる。波長とかそういうのを前に聞いた言葉で日野に教えた。
『恋は三つのing』
『なにそれ。英語。進行形?』
『男と女に必要な条件。てかこれあるといいよ、みたいな。タイミングでしょ。ハプニングでしょ。フューチャリング』
『フィーリングだろ。誰とコラボすんだよ』
『日野』
『座布団一枚』
てか知ってんのかよ、とツッコむと子供みたいに無邪気に笑いあった。
それももうない。別れたから。