辿り着いた日野の家には四角い黒い箱を掲げた人間が大勢集まっていて、パシャリパシャリと音を立てていた。あれはカメラで、人混みは取材陣という名の野次馬である。

 その野次馬を浸入させまいと奮闘するのは、青い服に赤い棒を持った大人。大声が行き交う中、黒と白のツートンカラーの車が赤いランプを頭に光らせて何台も停まっていて、


 家から女性を引っ張り出して車に無理やり乗せようとしていた。

 人混みの中棒立ちだった私は、髪がほつれ、頰がこけ、骸骨のようになったそれ。

 憔悴しきった女性と目があう。


「お前が殺したんだろう!お前が殺したんだろう!息子を返せ!!返して!!息子を!!あああ!!」

「早く乗せろ!!」

「返してよお!!!」








 大人たちに捕らえられ、やがてどこかへと消えてしまう車。不躾にもそれを連写した野次馬は波のようにさっと引いて、動けないでいた私はその場にひとり取り残される。ふとそこに気配。

 横を見る。学ラン姿の一人の男子高校生が、一拍遅れて私に振り向き、やんわりと微笑んだ。



「日野」