─────────このまま二人で逃げようか





「まっぴらごめんこうむるね」


 多香はバットを肩に携えたまま、振り向かないでそう告げた。


「日野と心中するくらいならタバコ屋のラッキーと心中するわ」

「よぼよぼのブルドック以下かおれは」




 はは、と笑って項垂れる。

 ひどいやつだお前って。本っ当に、ひどいやつ。

 結局バッティングセンターの営業終了時刻の方が多香がホームランを出すより早く、おばちゃんの応援虚しく多香は自分の分だけバッティングセンターの利用代金を支払って、拗ねたようにおれの後をついて来た。

 冬の真夜中だった。日を跨ぐ少し手前の時間、制服姿で、深夜徘徊してるのがバレたら速攻で補導の対象だ。でも空町の駐在員は致命的なほど、早寝早起きだ。要するに夜にパトロールの一つもしやしない。

 澄んだ空気に吐き出した息が溶けて、白く咲いた花が一瞬で枯れていく。満天の星空の下、永遠のような刹那は砂のように落ちていく。


 夜のネオンに身を委ね、唐突に消えた足音に振り向くと。橋の上で立ち止まった多香のポニーテールが、何かを察した心が、風に吹かれて揺れていた。

 怯えた双眸に心中で苦笑いする。


「日野ごめん、やっぱり私」

「まぁそう言うな」

「親が心配する」

「ではここで空を見てみましょう」

 え。なんで突然授業始まった、ときょとんとする多香を見てから空を指差す。


「オリオン座」

「どれ!?!?」

「あそことあそこ。線で繋ぐと砂時計みたいになるっしょ」