母さんが寝付くのを待って、握られた手をそっと布団の中にしまい込む。
立ち上がった瞬間、口から血が噴き出した。お気に入りのネイビーのパーカーは血でじっとりと濡れていて、羽織っていたダッフルコートのトグルを震える手で何とか閉じる。
外に出て二階から遠くの空を見ると、朝焼けに目が眩んだ。
「…………あー腹いってぇちくしょう…」
バイト行けないって連絡しないと。学校も。
救急車呼ばないと。でも金は。
母さんひとりにしたらまた。他人に心許すのか?
いろんなことが脳裏を駆け巡って、同時に何もかもどうでもいい気持ちに駆られる。だってどうせ手遅れだ。ならせめて自分の死に場所くらい自分で選んだっていいはずで。
人通りの少ない朝の街を手すり頼りに歩いて、ぜぇひゅうと息をする。吐き出す息は白いのに身体中脂汗をかいていて、さっきから視界に線が入ったりたまに途切れんのはなんでかな。
空はあんなにも綺麗で太陽はいつも通り輝いてるのに、置いてけぼりとかないだろう。
(………寒い)
朦朧とした意識の中、ついさっきまでそばに居た、とあるバカとのやりとりを思い出した。