「危ないよ、日野」

「おお。わり」

「死んだらどーすんだ」

「別にどうもしないけど」


 楽になれんならいいかもな、なんて思った。

 ちょっと焦がれるみたいに走る凶器が行き交う道路をぼうっと眺めていたら、多香にくい、と手を引かれた。その目があんまり本気でやめてほしそうにするから、「冗談だよ」って付け足す。


「多香」

「んー」


 ど平日の夕方の空。青く澄んだそれに浮かぶ雲はやがてなんとも言えない色合いに変わって、実際夕方が来ると満ちるのはオレンジではないことに気がつく。水っぽい雲と、もくもくとした美味しそうな雲は悠々と空の上。

 きっと悩みの一つもないのだろう。


「多香」

「んだよお」

「おれこの前誕生日だったんだけど」

「マジで?老けたね」

「プレゼントといってはなんですが一つお願いしていいですか」

 改まって言うほどでも多分ないんだろうけれど。そんなおれを知ってか知らずか、多香は一拍置いてから、来いよ、と手を自らに向けた。


 ❄︎


「で来たかったのはバッティングセンターかい!!」


 飛んで来たボールをフルスイングで三振する多香。いつの間にかとっぷり日の暮れた空には綺麗な星が浮かんでいて、振り向くと白い息が見えた。

 夜の空は星が綺麗に映えるものだ。


─────────お前の24時間俺にくれ

  その言葉にはじめこそ人にジト目をくれて訝っていた多香だったが、なんだかんだ結局信頼仕切って付いてくるからチョロいんだってお前は。


「いや、人様のお嬢さん借りるんだからそれなりの場所来ないと」

「まじこれつっかれる…痩せてしまう」

「いいことじゃん」

「お前の一部が少しでも地球から減るのが辛いとか言えないのか日野」

「オマエノイチブガ」

「のっけから棒読み」

 ベンチに座っていたおれはがつん、と投げてくるボールをすんでのところで躱して、顔を傾けたまま両手を叩く。

「多香が当てない限り帰れないんで」

「何その熱血講師~くたばれ~」

「おれ三回ホームランしたじゃん」

「元野球部なんだから当然ぞ~」


 ホームラン当てないとここタダになんねーの、とベンチに座って応援すれども、へっぴり腰は相変わらずだしポニーテールは揺れるばっかで全く仕事しないのな。