「多香」
「うん?」
「やるか」
「いいよ」
ぶらり、立ったまま手をぶら下げた俺と、クッションを抱き締めたまま、見上げた瞳が瞬き、無邪気に桃色の唇を震わせる。
そのまま見つめ合うこと──────5秒後、
「「せぇえええええのっ!!!!!!」」
「このへんですかお客さん」
「あ───そこそこそこそこ、マジいいそこ」
(足凝りすぎこの女)
一回勝負全身全霊じゃんけんの末、チョキで勝利を得た多香のふくらはぎをマッサージしながら舌打ちをする。
学校でも昼ごはんや早弁の購買パンを買うために買い出しじゃんけんをすることがあるが、この女に買った試しがまるでないのは何故なのか。
「なんでこんな浮腫んでんの多香」
「すぐ浮腫むんだよなーなんでかな」
「道理でいつも大根みたいな足してr」
「あーこっちも足だるいっすわ」
「人の顔足で蹴んじゃねえ」
てか家にまで呼んでマッサージってなんだこれ。色気もクソもありゃしねえ。そのうち疲れて部屋の片隅に転がってたテトリスに熱中する俺に、どーんと背中から覆い被さってくる大根女。
「なっつかし、それ」
「復刻版」
「面白い?」
「難しい」
「こしょこしょこしょ」
「やめろそれ腹はやめろ」
ここか、ここなのか、なんて人の脇腹集中放火してくるこいつは最早JKじゃなくておっさんだ。
堪らず「やーめろ、」って猫同士が戯れるみたいに多香の手をつねりあげた瞬間、ばたんと家の扉が開いた。